2005-09-25

インディアンパシフィックとナラボー平原 Part three

アデレードを出た列車は、夜にポートオーガスタで停車する。
ここで降りる人はほとんどいない。

ポートオーガスタはアデレードから約320キロ。
アウトバックの交差点とも言われている。
交差点でありながら、町自体の景気は長く低迷し、錆びれた斜陽の町である。
北へ行くとアリススプリングス、東へ行くとブロークンヒルへと道は続く。
西にはナラボー平原が横たわり、次に文明を見るのは遥か2000キロの彼方だ。

駅にしばらく停車した後、列車はゆっくりと動き出した。
駅を出て、時折、点々と灯るプラントの白熱灯が、この町のわびしさを強調した。
遠くに見えていた街灯もいつの間にか消え、ナラボーへ入ったことが分かった。

夜のナラボーは一点の灯りもなく、果てしなく黒い。
部屋の明かりを消すと、ようやく窓の向こうに無数の星が浮かび上がった。
そして、見えなかった地平線の境界がはっきりと分かった。
同時に、眠気が、インディアンパシフィックと銀河鉄道の境を分からなくした。

真夜中、ものすごい振動があり、ベッドから落ちそうになって目が覚めた。
列車は、15分ほど停車した後、何事もなかったかのように再び走り出した。

翌朝、車掌は「大きなカンガルーに衝突した」と理由を説明してくれた。
ナラボーでは、時々、色んな動物が列車のライト目がけて飛び出してくるらしい。
夜にたたき起こされることを覚悟しておこう。

Part four へつづく

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2005-09-18

インディアンパシフィックとナラボー平原 Part two

インディアンパシフィックの車両クラスには3つのカテゴリーがある。
1等寝台、2等寝台、それと座席オンリーだ。
1等は個室、2等は相部屋、そして座席オンリー。
1等は基本的にトイレ・バス付、2等はトイレ・バスが共同となっている。

インディアンパシフィックは、豪華列車ではあるが、一括りにはできない。
座席オンリーでは、世界各国のバックパッカーや日本のワーホリをよく見る。
ワーホリの中には、ギネスブックにも載るナラボーの直線線路を体験するという
目的の為だけに、インディアンパシフィックに乗車する者も多い。
ワーホリ仲間達は、滞在期間中にお金をかけず、大陸のあちこちでどれだけの
チャレンジをしたか、ということがちょっとした自慢になるからだ。
これはヨーロッパから来るバックパッカーにも似たような傾向が伺える。
世界遺産ハンター同様、ギネスハンターなるトラベラーとでも言おうか。

今回、私が1等寝台を予約したのには、様々な理由が重なってのことだが、
一つだけ、私なりのオタク的な理由があった。

昔、超多忙な会社で働いていた頃、帰路の山手線の中でうとうとし、
帰宅駅に着いて、慌ててフラフラになりながら降りることがよくあった。
そんな時「このまま電車で眠り続けることができたら、気持ちいいのになぁ」
と強く思い、その欲求がずっと心に残っていた。
インディアンパシフィックの旅は、自由に好きなだけ電車で眠ることができる。
電車で眠ることだけでも快感なのに、個室のベッドで横になって眠ることができる。
ましてや4日間ともなれば、欲求を満足させるには充分過ぎる時間である。

いざ! 

車両の揺れと、走行音は、揺りかごで子守唄を聞いているような感覚だった。

Part three へつづく

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2005-09-12

インディアンパシフィックとナラボー平原 Part one

インディアンパシフィック号は、インド洋と太平洋間を結ぶ大陸横断鉄道だ。
オーストラリアの鉄道は、もう一つ、南北を貫く「ザ・ガン号」が代表的である。
この変わった名前は アフガニスタンの“アフガン”から命名された。
どちらも観光鉄道なので、景色の素晴らしさと、車内の快適さは折紙付だ。
しかし、両鉄道それぞれの見所は全く違う。

ガンは、南はアデレードから北のダーウィンまで2泊3日の旅。
地中海性気候、砂漠地域、熱帯地域等、気候や地勢の変化は目まぐるしい。

対照的に、インディアンパシフィックのハイライトは、世界で一番長い直線線路が
敷かれていることでも有名になっている、超単調なナラボー平原の旅である。

シドニーセントラル駅でチェックイン手続きを済ませ、1等寝台に案内された。
ゴールドカンガルーと呼ばれるこの寝台車で、パースまでの4日間を過ごす。

学生の頃、ハンガリーのブダペストを真夜中に出発し、旧ユーゴスラビアを通り、
3日目、ギリシャのアテネに到着するまで列車に乗り続けたことがある。
この時でさえ、時間的には約33時間だったので、今回はこれを上回る長旅だ。
ヨーロッパの鉄道ではコンパートメントに寝泊りしていたためか、長く感じた。
このインディアンパシフィックの旅も、出発前は長旅になることを覚悟していたが、
予想をはるかに反し、1等寝台のあまりの居心地の良さは、終わってみれば、
日本とオーストラリア間のフライトをエコノミーシートで飛ぶよりも短く感じた。

翌日午後に着いたアデレードケズウィック駅は、ガンの南の発着地でもある。
駅構内では、長距離列車の記念品などを購入することができる。
待合室で、旅人たちと共に、やがて突入するナラボーへの旅の思いを馳せていた。

Part two へつづく

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2005-09-11

オーストラリアで投票しない人は罰金の刑

衆議院選挙投票日の今日、JR京都駅の八条口に黒山の人だかりがしていた。
小泉首相が、要人出入口から出てくるとのこと。
皆、手にケータイを持ち、シャッターチャンスを逃すまいと必死だ。
そこに居合わせた外国人夫婦の会話が選挙を皮肉っていた。
妻が「Who is the person?」と尋ね、夫は「President」と答えた。
“Prime minister” と答えなかった夫は、かなりの日本通と見た。

今回の衆議院選挙は、投票率の高さが注目されていた。
結果、話題が重なって、最近にしては珍しく多くの人が投票に行ったようだ。

自由の国を標榜するオーストラリア。
この国の選挙制度には、「棄権する」という選択肢は無い。
オーストラリアでは、選挙は国民の義務であり、決して権利ではないのである。
義務を全うしてこそ、真の自由があると言う考え方だ。
投票に行かないと罰金が課せられるので、投票率はほぼ100%にもなる。

さて、小泉首相が通り過ぎた後、多くの人々(ほぼ100%は女性)が、
黄色い声とケータイ片手に、怒涛のごとく追いかけて行った。
それを見た私は、選挙結果を見るまでも無く、小泉首相の圧勝を予感した。

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続きがあります

2005-09-03

シドニーのタクシードライバーとの会話は大声で!

シドニーでタクシーに乗った瞬間「うわっ!」と思ったことがあった。
初めて ”保護カプセル” を見たときだ。

オーストラリアではタクシーを利用する際、助手席に乗るのが通例だ。
この日、いつも通り助手席へ乗り込もうとしたところ、運転手との間に透明
の防御壁が立ちはだかり「ここはオーストラリアと違うの?」と目を疑った。
助手席は圧迫感となにやら疎外感を感じ、後部座席へ移ることにした。

その保護カプセルは、見るからに仰々しく、オーストラリアってこんなに治安
が悪かったっけ?と車内で考えさせられた。
フレンドリーで開放的なオージーに対して、不釣合いな代物ができたものだ。

元来オージーはフレンドリーだが、それゆえ中には度を越して暴徒化する
輩も多く、酔っ払うと手が付けられなくなる無法者もいる。
タクシードライバーは恰好のターゲットになってしまうらしい。

シドニーのタクシードライバーの大半は、中国人を中心としたアジア系や
中近東の移民して間もない人達が占め、彼らを守るために設置された。
労働者の権利が強いオーストラリアならではの措置か。

移民が多くなればなるほど、より強固な秩序が必要になる。
治安の良さとフレンドリーさが特徴のこの国の複雑な一面でもある。
何はともあれ、シドニーのタクシーは先進的で一見の価値はある。

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