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2006-12-13
400年後の里帰り ~カラヴァッジョ作「聖ピエトロと聖アンドレアの召命」~
ロンドン郊外にあるハンプトンコート宮殿地下倉庫での
長い眠りから覚め、約6年の歳月をかけた緻密な修復作業の
結果、「聖ピエトロと聖アンドレアの召命」と呼ばれる作品が
イタリアの初期バロック絵画の巨匠カラヴァッジョの真作である
ことが明らかになった、とのニュースが公表されてからおよそ
ひと月が経過した。
その作品が今、イタリア・ローマへ<一時帰郷>している。
このカラヴァッジョ、長年イタリア旅行をされている方には、
かつてのイタリア国通貨100.000リラ紙幣にのっていた男、
といえば思い出していただけるかも。
2007年1月31日までローマ・テルミニ駅内
「テルミニ アート ギャラリー」で、上記作品を含む
個人コレクションの展覧会が開催されており、運良くこの時期、
何度か列車でローマを訪れる機会があった私も
そのカラヴァッジョ<噂の作品>鑑賞のチャンスに恵まれた。
数世紀もの間に蓄積された激しい汚れや変質したのり、
上塗りを繰り返された質の悪い塗料のせいで
まるで淡色画のようになっていたこの作品。
それらを注意深くこつこつ取り除いた後、浮かび上がってきた
のは鮮やかな色づかいと聖人達のゆったりとした衣の美しく
リアルなドレープ。
イタリアの誇る長く深い芸術の歴史の中でも、
私が最も敬愛する画家カラヴァッジョ。
1610年に幕を閉じたといわれる彼の短くも波乱万丈で
今なお多くの謎が残る38年の生涯の中で生み出した
数々の宗教画の傑作、そしてそれらが当時のキリスト教界の
タブーや常識を覆したことから、センセーショナルな波紋を呼び
物議をかもしたというエピソードは彼の作品や彼自身を、
そしてさらにキリスト教の歴史を語るには欠かせない。
白と黒、黒と赤といった明暗のコントラストと大胆で鮮やかな
配色、斬新な人物配置が効果的な彼の作品だが、
その中に置かれた宗教画の「鍵」(=シンボル。例えば「水」は
潔白・浄化あるいは対照的に受難・試練を表し、「ろうそくの灯」
は神、「乳香」は司祭を表現)からその作品の主題を
読み解きながらじっくりと鑑賞するのが私流の楽しみ方。
キリスト教徒でない私が宗教画の意味をしっかり理解しながら
鑑賞するのはなかなか困難だが、今年手に入れた
「SANTI(聖人)」という300人以上の聖人の生涯について
綴られた本が今の私にとってはなかなかありがたい
宗教画の参考書だ。
ウッフィツィ美術館(フィレンツェ)では「イサクの犠牲」、
「バッカス」、ボルゲーゼ美物館(ローマ)では
「バッカスに扮する自画像」、「果物籠を持つ少年」といった
彼の傑作を鑑賞することが出来るが、
ローマの聖ルイ-ジ・デイ・フランチェージ教会や
聖アゴスティーノ教会、そして聖マリア・デル・ポポロ教会らの
祭壇に残る見事な作品も見逃せない。
しかしながら私がお薦めするカラヴァッジョの作品は
何といっても、彼の作品の中では異質といってもよい
穏やかで柔らかな雰囲気に満ちている、
ドーリア パンフィーリ美術館(ローマ)所蔵の
「エジプトへの逃避途上の休息」だ。
さて、冒頭の「里帰り作品」は、
3月にロンドンで開催される「クィーンズ・ギャラリー展」に
出展されるため再びロンドンへ帰ってゆく。
W杯優勝後に「モナリザ返せ~」とフランスに向け叫んでいた
イタリア人が、120億円以上の価値を持つといわれる
この作品奪回のために「カラヴァッジョ返せ~」と、
再び叫びますかどうか。
*カラヴァッジョ 個人所蔵展
:2007年1月31日まで
ローマ・国鉄テルミニ駅内Termini Art Gallery で開催
午前10時から午後8時まで(会期中無休館) 入場料8ユーロ
*ドーリア パンフィーリ 美術館(ローマ)
:Piazza del Collegio Romano 2 TEL(06)6797323
午前10時から午後5時まで 木曜休館 入場料8ユーロ
長い眠りから覚め、約6年の歳月をかけた緻密な修復作業の
結果、「聖ピエトロと聖アンドレアの召命」と呼ばれる作品が
イタリアの初期バロック絵画の巨匠カラヴァッジョの真作である
ことが明らかになった、とのニュースが公表されてからおよそ
ひと月が経過した。
その作品が今、イタリア・ローマへ<一時帰郷>している。
このカラヴァッジョ、長年イタリア旅行をされている方には、
かつてのイタリア国通貨100.000リラ紙幣にのっていた男、
といえば思い出していただけるかも。
2007年1月31日までローマ・テルミニ駅内
「テルミニ アート ギャラリー」で、上記作品を含む
個人コレクションの展覧会が開催されており、運良くこの時期、
何度か列車でローマを訪れる機会があった私も
そのカラヴァッジョ<噂の作品>鑑賞のチャンスに恵まれた。
数世紀もの間に蓄積された激しい汚れや変質したのり、
上塗りを繰り返された質の悪い塗料のせいで
まるで淡色画のようになっていたこの作品。
それらを注意深くこつこつ取り除いた後、浮かび上がってきた
のは鮮やかな色づかいと聖人達のゆったりとした衣の美しく
リアルなドレープ。
イタリアの誇る長く深い芸術の歴史の中でも、
私が最も敬愛する画家カラヴァッジョ。
1610年に幕を閉じたといわれる彼の短くも波乱万丈で
今なお多くの謎が残る38年の生涯の中で生み出した
数々の宗教画の傑作、そしてそれらが当時のキリスト教界の
タブーや常識を覆したことから、センセーショナルな波紋を呼び
物議をかもしたというエピソードは彼の作品や彼自身を、
そしてさらにキリスト教の歴史を語るには欠かせない。
白と黒、黒と赤といった明暗のコントラストと大胆で鮮やかな
配色、斬新な人物配置が効果的な彼の作品だが、
その中に置かれた宗教画の「鍵」(=シンボル。例えば「水」は
潔白・浄化あるいは対照的に受難・試練を表し、「ろうそくの灯」
は神、「乳香」は司祭を表現)からその作品の主題を
読み解きながらじっくりと鑑賞するのが私流の楽しみ方。
キリスト教徒でない私が宗教画の意味をしっかり理解しながら
鑑賞するのはなかなか困難だが、今年手に入れた
「SANTI(聖人)」という300人以上の聖人の生涯について
綴られた本が今の私にとってはなかなかありがたい
宗教画の参考書だ。
ウッフィツィ美術館(フィレンツェ)では「イサクの犠牲」、
「バッカス」、ボルゲーゼ美物館(ローマ)では
「バッカスに扮する自画像」、「果物籠を持つ少年」といった
彼の傑作を鑑賞することが出来るが、
ローマの聖ルイ-ジ・デイ・フランチェージ教会や
聖アゴスティーノ教会、そして聖マリア・デル・ポポロ教会らの
祭壇に残る見事な作品も見逃せない。
しかしながら私がお薦めするカラヴァッジョの作品は
何といっても、彼の作品の中では異質といってもよい
穏やかで柔らかな雰囲気に満ちている、
ドーリア パンフィーリ美術館(ローマ)所蔵の
「エジプトへの逃避途上の休息」だ。
さて、冒頭の「里帰り作品」は、
3月にロンドンで開催される「クィーンズ・ギャラリー展」に
出展されるため再びロンドンへ帰ってゆく。
W杯優勝後に「モナリザ返せ~」とフランスに向け叫んでいた
イタリア人が、120億円以上の価値を持つといわれる
この作品奪回のために「カラヴァッジョ返せ~」と、
再び叫びますかどうか。
*カラヴァッジョ 個人所蔵展
:2007年1月31日まで
ローマ・国鉄テルミニ駅内Termini Art Gallery で開催
午前10時から午後8時まで(会期中無休館) 入場料8ユーロ
*ドーリア パンフィーリ 美術館(ローマ)
:Piazza del Collegio Romano 2 TEL(06)6797323
午前10時から午後5時まで 木曜休館 入場料8ユーロ