2006-10-28

ある霧の朝に

10月も末、私の住むウンブリア州のこの田舎では
深い霧があたりを包む朝がすっかり多くなった。





金色や栗色に染まる落葉のじゅうたんを敷き始めた
イタリア中世の街や村の佇まいをさらに幻想的で美しくする
この季節の朝ならではのこのグレーの光景は、
しかし一滴のメランコリーを私の心に落とす。

じめじめ、もやもや、どんよりと重い空気。
湿っぽく洗濯物が乾きにくい。
買ってきたパンにすぐカビが生える。
そのうえ、この週末には夏時間も終了、
日本との時差が標準の8時間にもどる・・・。
敵であり、また味方でもあるこの時差にあわせて
毎朝7時前にはベッドを抜け出し日本へ向けての
仕事を開始するのが私の今の日課。 
好きで、そして情熱を傾けている仕事とはいえ、
さらに1時間早く起き、あたりがまっ暗なうちから
白い息を吐きつつ着ぶくれてパソコンに向かう日々が
すぐそこまでやってきているかと思うと
やはり、ちょっぴり憂うつになる。

そんな憂うつさを吹き飛ばしたくて、
<今の日課>に今日は背き、パソコンを見捨て、
朝から部屋を飛び出すことに決めた。
そういえば今日は木曜、あの広場で青果市が立つ日だ。

そんなわけで今朝は、
<少し前までの日課>を懐かしく辿ることが出来た。

いつも寄っていたエディーコラでいつもの新聞を買う。
「お~、久しぶり!元気にしてた?」
いつも朝食をとっていたバールで
ザバイヨーネクリームの入ったブリオッシュと
暖かいカプチーノを頼む。
相変わらず、ふんわりと美味しい。
いつもの駅で来週出かける予定のトリノまでの切符を買い、
おもてに出た頃には、すっきりと澄み渡った空に輝く太陽。
もう、あの霧はどこにも残っていない。

ああ、私の心もやっと晴れて軽くなってくる。

市場に溢れる人に紛れ、いつものおばちゃんの露店で
みずみずしい朝露滴る、かぶの葉のどっさりした一束を買う。
今晩のおかずはこれでビタミン満点。

人ごみをあとに再びバスに揺られ、
湿ってきしんでいた背骨を
秋の太陽の穏やかなぬくもりで乾かしながら、
家への道のりをゆっくりと歩く。最後に
同じ敷地内に最近住み始めた<新顔>達を
ひとしきりからかってから、また部屋へ戻る。





ほんの3時間のことだけど、ゆらりとリラックス。
たまには、こんな朝の過ごし方もまんざらでもないな。




続きがあります