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2005-11-22
マニラの旅(最終回)
宿を出ると辺りはすっかり暗くなっていた。ボクはとりあえず海沿いに続く散歩道を歩いてみた。暑いマニラではこの海岸通にたくさんあるオープンカフェで食事をするのがデートコースらしい。最後の夜なのでちょっと奮発してここで海を眺めながらビールでもよかったが、一人じゃちょっと寂しいのでやめた。
海岸通をはずれて街に戻ると公園に感じのよさそうな店があった。店先でなにやらいろんなものを焼いている。メニューなどなさそうだが、ずらっとならんだ串や魚を見ているともうそれだけで十分。
「この肉ってなに?」
「ビーフです。」
お店の若い女の子はそう答えた。
「じゃあこの横のやつは?」
「。。。。。。」
うーんといいながら彼女は返事をしない。どうやら英語が思いつかないようだ。でもお腹をさすって「これこれ」みたいな仕草をしている。きっと内臓のどこかだと察しがつく。
「いいよ、じゃあこれとこれ。それと魚焼いて。」
ボクはいろんな内臓(だと思う)と魚の半切れを選んで彼女に渡した。
彼女はそれをお皿に移すと手際よく大きなカンテキに並べて焼きだした。ものすごい煙が一気に上がって店は真っ白。彼女は平気な顔をして焼き続ける。
アジアにはこの手の店はどこにでもあるものだが、マニラではほとんど見かけない。当局の管理なのか屋台というと商品を売るものばかりで、食べ物を作って売る屋台はみかけない。ここも外で調理して外で食べるが一応は店である。
美味しそうに焼き上がった。まずは魚を食べてみる。ちょっと焦げた感じがするが味は悪くない。なんの魚かわからないが海の魚らしい。鯵の塩焼きをちょっと身を堅くして油がなくなった感じだ。続いて肉を食べてみる。
牛肉も何やらわからない内臓も全然問題なく食べれる。
「お姉さん、ビールある?」
「ビールないよ、そこのセブンイレブンで買ってきて」
セブンイレブンはすぐそこにあった。
「買ってきてよ、3本でいいから。」
ボクは彼女にお願いしてみたが、替わりに違う店の子が買いに言ってくれた。食べる前に買わなかったボクのミスだ。結局ボクはこの店で缶ビールを5本飲んだ。
宿に帰ったのは11時前くらいだっただろうか、ロビーではあの山下将軍と男3人で宴会をやっていた。といってもみんなビール瓶を片手にスナックを食べているだけだ。
「お帰り!」
山下将軍がボクに声をかける。
「ただいま、ボクも一緒ビールいいかい?」
「いいよ、一緒に飲もう!」
実はボクもビールを買って帰ってきていた。
話をすると、どうやら三人のうち二人はこの宿の人で、もう一人は泊まってる客らしい。ボクらはしばらくロビーで飲んでいたが、そのうち一人がDISCOに行こうと言いだした。
「スナフ、今夜が最後なんだろ?明日はもう日本に帰るんだろ?それなら一緒に今夜は飲んで踊ろうよ!」
彼はビールを飲みながらそう言った。
「DISCOってフィリピン人が行くDISCOかい?」
「そうだよ、観光客なんか来ないローカルなDISCO。」
「それってどれくらいするんだ?」
ボクはすでに行く気満々だったがお金が気になった。
「そうだな、一人100ペソくらい。。。。」
100ペソというと200円。
「行こう!」
「おう!」
話はすぐまとまった。しかし山下将軍は店番があるらしく行けないらしい。
「残念だよ、俺も仕事なかったら行くんだけどな。」
彼は寂しそうにそう言ってボクらを見送った。
金曜日ということもあって店は超満員だった。そこを何とか交渉してテーブルを空けてもらった。
そのフィリピンDISCOというところは半分室内で半分がオープンテラスになっていた。奥のステージでは女性ばかりのバンドが演奏してその前でみんな踊っている。
ボクらは席に着くと店員を呼んで交渉をはじめた。
「チャージが一人150ペソ、それにビールが400ペソみたいだ。」
彼はボクにそう言った。店の女の子はボクが外人だとわかったらしく、不思議そうな顔をしていた。
ビール400ペソとはかなり高いなと思ったが、どうやらピッチャーみたいな大きなやつらしい。
ボクは明日帰国なのであまり持ち金はなかったがそれくらいはある。
「じゃあ一人250ペソずつだな。」
「そうだけど俺はお金持ってない。。。。」
「俺もない。。。。」
三人のうち宿の客ともうひとりがそう言った。
「うそ!おいおい、俺は明日帰るからそんなにお金持ってないよ。」
ボクがそういうともう一人は200ペソ出した。
「俺はこれだけしかない。。。。。。」
「。。。。。。。」
ボクが持っているのは彼の200ペソを合わせて四人分ちょうどくらいだった。
「俺、これ出すよ」
一人はそう言って時計をテーブルの上に出した。
「俺もこれ出すよ。」
そうすると宿の客も同じように時計を出した。
「これって、この時計でお店に払えるの?」
まさかそんなことできるわけない。
「いいよいいよ、ボクがみんなの分払うから。」
とにかくボクは有り金全部払ってなんとかビールを注文した。
ビールは樽のようなものに入っていた。下に蛇口みたいなのが付いていてそこから自分で注ぐらしい。さっそく店の女の子とそのビール樽の写真を撮った。
その子に訊くとこの樽は4リットルはいってるそうだ。
「最後の夜に乾杯!」
ボクらはやっとビールにありついた。
座席はすでに超満員。みんな飲んで踊っている。
「スナフ、踊ろうぜ!」
お金の心配がなくなった三人はボクを踊りに誘う。
「チャ・チャ・チャかかるかい?」
ボクは訊いてみた。
「チャ・チャ・チャが好きなのかい?もちろんかかるよ!」
ボクは何でも踊るが特にチャ・チャ・チャが好きだ。
でも日本にはもうこんなバンドが入ってて踊るようなお店はあまりないような気がする。ミラーボール輝くアメリカンDISCOもとっくに姿を消して、今思いつくのはクラブくらいだろうか。ボクは彼にそのことを話した。
「じゃあ日本ではどんな踊りが流行っているんだい?」
「そうだな。。。。」
と言われても日本で踊りになんか行かないのでさっぱりわからない。残念ながらクラブにも行ったことがない。
ボクはとっさに思いついた。
「あるよ、今日本で流行の踊りが。」
「どんなの?教えてくれよ。」
「いいよ、とっても簡単だから。こうするんだよ。」
と言ってボクは彼に近江住宅黒沢サンの踊りを教えた。(関西の人はわかります。)
結局、マニラでの最後の夜は朝四時半まで飲んで踊った。もちろんあのビール樽もひとつでは足りるわけもなく、帰るまでに4樽飲んでしまった。四人で4樽だから一人4リットル飲んだことになる。当然お金もないのでボクはこの夜、二回両替に走った。便利なことに両替屋は24時間営業だ。
宿へ帰るころはもう明るくなりかけていた。
「またマニラに来たら一緒に踊ろうな。」
宿の彼がそう言った。
「もちろん!またDAKS INNに泊まるよ。」
こうしてボクのマニラでのラストナイトは明けていった。
海岸通をはずれて街に戻ると公園に感じのよさそうな店があった。店先でなにやらいろんなものを焼いている。メニューなどなさそうだが、ずらっとならんだ串や魚を見ているともうそれだけで十分。
「この肉ってなに?」
「ビーフです。」
お店の若い女の子はそう答えた。
「じゃあこの横のやつは?」
「。。。。。。」
うーんといいながら彼女は返事をしない。どうやら英語が思いつかないようだ。でもお腹をさすって「これこれ」みたいな仕草をしている。きっと内臓のどこかだと察しがつく。
「いいよ、じゃあこれとこれ。それと魚焼いて。」
ボクはいろんな内臓(だと思う)と魚の半切れを選んで彼女に渡した。
彼女はそれをお皿に移すと手際よく大きなカンテキに並べて焼きだした。ものすごい煙が一気に上がって店は真っ白。彼女は平気な顔をして焼き続ける。
アジアにはこの手の店はどこにでもあるものだが、マニラではほとんど見かけない。当局の管理なのか屋台というと商品を売るものばかりで、食べ物を作って売る屋台はみかけない。ここも外で調理して外で食べるが一応は店である。
美味しそうに焼き上がった。まずは魚を食べてみる。ちょっと焦げた感じがするが味は悪くない。なんの魚かわからないが海の魚らしい。鯵の塩焼きをちょっと身を堅くして油がなくなった感じだ。続いて肉を食べてみる。
牛肉も何やらわからない内臓も全然問題なく食べれる。
「お姉さん、ビールある?」
「ビールないよ、そこのセブンイレブンで買ってきて」
セブンイレブンはすぐそこにあった。
「買ってきてよ、3本でいいから。」
ボクは彼女にお願いしてみたが、替わりに違う店の子が買いに言ってくれた。食べる前に買わなかったボクのミスだ。結局ボクはこの店で缶ビールを5本飲んだ。
宿に帰ったのは11時前くらいだっただろうか、ロビーではあの山下将軍と男3人で宴会をやっていた。といってもみんなビール瓶を片手にスナックを食べているだけだ。
「お帰り!」
山下将軍がボクに声をかける。
「ただいま、ボクも一緒ビールいいかい?」
「いいよ、一緒に飲もう!」
実はボクもビールを買って帰ってきていた。
話をすると、どうやら三人のうち二人はこの宿の人で、もう一人は泊まってる客らしい。ボクらはしばらくロビーで飲んでいたが、そのうち一人がDISCOに行こうと言いだした。
「スナフ、今夜が最後なんだろ?明日はもう日本に帰るんだろ?それなら一緒に今夜は飲んで踊ろうよ!」
彼はビールを飲みながらそう言った。
「DISCOってフィリピン人が行くDISCOかい?」
「そうだよ、観光客なんか来ないローカルなDISCO。」
「それってどれくらいするんだ?」
ボクはすでに行く気満々だったがお金が気になった。
「そうだな、一人100ペソくらい。。。。」
100ペソというと200円。
「行こう!」
「おう!」
話はすぐまとまった。しかし山下将軍は店番があるらしく行けないらしい。
「残念だよ、俺も仕事なかったら行くんだけどな。」
彼は寂しそうにそう言ってボクらを見送った。
金曜日ということもあって店は超満員だった。そこを何とか交渉してテーブルを空けてもらった。
そのフィリピンDISCOというところは半分室内で半分がオープンテラスになっていた。奥のステージでは女性ばかりのバンドが演奏してその前でみんな踊っている。
ボクらは席に着くと店員を呼んで交渉をはじめた。
「チャージが一人150ペソ、それにビールが400ペソみたいだ。」
彼はボクにそう言った。店の女の子はボクが外人だとわかったらしく、不思議そうな顔をしていた。
ビール400ペソとはかなり高いなと思ったが、どうやらピッチャーみたいな大きなやつらしい。
ボクは明日帰国なのであまり持ち金はなかったがそれくらいはある。
「じゃあ一人250ペソずつだな。」
「そうだけど俺はお金持ってない。。。。」
「俺もない。。。。」
三人のうち宿の客ともうひとりがそう言った。
「うそ!おいおい、俺は明日帰るからそんなにお金持ってないよ。」
ボクがそういうともう一人は200ペソ出した。
「俺はこれだけしかない。。。。。。」
「。。。。。。。」
ボクが持っているのは彼の200ペソを合わせて四人分ちょうどくらいだった。
「俺、これ出すよ」
一人はそう言って時計をテーブルの上に出した。
「俺もこれ出すよ。」
そうすると宿の客も同じように時計を出した。
「これって、この時計でお店に払えるの?」
まさかそんなことできるわけない。
「いいよいいよ、ボクがみんなの分払うから。」
とにかくボクは有り金全部払ってなんとかビールを注文した。
ビールは樽のようなものに入っていた。下に蛇口みたいなのが付いていてそこから自分で注ぐらしい。さっそく店の女の子とそのビール樽の写真を撮った。
その子に訊くとこの樽は4リットルはいってるそうだ。
「最後の夜に乾杯!」
ボクらはやっとビールにありついた。
座席はすでに超満員。みんな飲んで踊っている。
「スナフ、踊ろうぜ!」
お金の心配がなくなった三人はボクを踊りに誘う。
「チャ・チャ・チャかかるかい?」
ボクは訊いてみた。
「チャ・チャ・チャが好きなのかい?もちろんかかるよ!」
ボクは何でも踊るが特にチャ・チャ・チャが好きだ。
でも日本にはもうこんなバンドが入ってて踊るようなお店はあまりないような気がする。ミラーボール輝くアメリカンDISCOもとっくに姿を消して、今思いつくのはクラブくらいだろうか。ボクは彼にそのことを話した。
「じゃあ日本ではどんな踊りが流行っているんだい?」
「そうだな。。。。」
と言われても日本で踊りになんか行かないのでさっぱりわからない。残念ながらクラブにも行ったことがない。
ボクはとっさに思いついた。
「あるよ、今日本で流行の踊りが。」
「どんなの?教えてくれよ。」
「いいよ、とっても簡単だから。こうするんだよ。」
と言ってボクは彼に近江住宅黒沢サンの踊りを教えた。(関西の人はわかります。)
結局、マニラでの最後の夜は朝四時半まで飲んで踊った。もちろんあのビール樽もひとつでは足りるわけもなく、帰るまでに4樽飲んでしまった。四人で4樽だから一人4リットル飲んだことになる。当然お金もないのでボクはこの夜、二回両替に走った。便利なことに両替屋は24時間営業だ。
宿へ帰るころはもう明るくなりかけていた。
「またマニラに来たら一緒に踊ろうな。」
宿の彼がそう言った。
「もちろん!またDAKS INNに泊まるよ。」
こうしてボクのマニラでのラストナイトは明けていった。
2005-11-10
マニラの旅(part3)
ブルネイからマニラへ帰ってきた。空港から市内への行き方はもう簡単、バクララン駅行きのジプニーもすぐひろえた。
以前はチャイナタウンに泊まっていたが、最後の夜は繁華街の近くに宿をとることにした。チャイナタウンあたりは結構夜は早く店が閉まってしまうからだ。
中心に近いペドロ・ヒル駅で降りてとりあえず両替屋を探す。ブルネイに行くときにペソを残しておいたのだが、今夜の宿代と飲み代にはちょっと寂しい。
このあたりマラテ地区は探さなくても両替屋はたくさんある。ボクは3畳ほどの小さな両替屋でとりあえず20ドル両替した。
「すいません、日本人ですか?」
お金を数えていると後ろから日本語で声がかかった。見ると60前後くらいのおじさんだった。
「日本人ですか?」
「そうだよ。」
おじさんは中華系なのか見た目は日本人とかわらない。
「女いりませんか?」
「女?そんなのいらないよ、明日日本に帰るしね。」
明日帰らなくても必要ない。ボクはこの手の客引きは嫌いだった。
「どこ泊まってますか?」
おじさんはしつこくボクに問いかけてくる。
「どこも泊まってないよ、これから探すんだよ。」
「今日来たのですか?それで明日帰りますか?」
「ブルネイに行ってて明日帰るの。」
胡散臭いおっさんにボクはいらいらしていた。普段ならさっさと行ってしまうのだが、外はスコールで大雨だった。
「ホテルもありますよ。」
「ほんと?一泊いくら?」
これから宿を探すボクは思わずおじさんの言葉に反応した。
「2000から3000ペソくらいです。」
というと4~6千円だ。とても話にならない。
「高すぎるよ、500くらいだったら払うよ。」
「500もあります。」
おじさんはさらっと言ってのけた。
「ほんと?500ペソだよ、じゃあ連れてって。」
連れて行かれたのはその両替屋の2階だった。いかにも安宿らしいドアには「DAKS INN」とかかれている。
レセプションにいたのは日本人ぽい顔をした変なやつ。「部屋を見せてくれる?」というといろいろ部屋を見せてくれた。
雑居ビルの2階にあるDAKS INNは全部で10室くらいだろうか。
狭い通路には昼間からビールを飲んでいるそれっぽい職業の女性がいた。綺麗な顔立ちで「Hi !」と声をかけられてちょっとビックリ。
結局ボクは一泊520ペソのエアコン付きの部屋を選んだ。トイレ、シャワー付きもあったが、どうも汚くて共同シャワーの方が清潔な感じだった。
部屋は全部黄色に塗られていて、そこにエアコンとテレビがあるシンプルなもの。典型的な安宿だったが何故かしっくりくる。
「私はいつもこの辺にいます。女いるならいつでも言ってください。ここに連れてきてもいいですから。」
「ああわかったよ。そん時はたのむよ。」
ボクはそう言っておじさんを追い払った。
「ここにするよ。明日帰るから一泊だけ。」
ボクは部屋を見せてくれた彼にパスポートを渡してお金を払った。
「あなたは日本人ですか?」
彼はボクのパスポートを見てそう言った。
「そうだよ。」
「山下将軍を知ってますか?」
「山下将軍?」
名前を聞いてピンとこなかったが、確か陸軍大将だった人のような記憶がある。
「俺は山下将軍って呼ばれてるんだ、似てるだろ?」
似てると言われても山下将軍の顔はみたことない。
それからボクは彼のことを「山下将軍」と呼ぶようになった。
チェックインを済ましたボクは何やかんやと山下将軍と話し込み、気が付けば7時を過ぎていた。
「そろそろご飯食べに行くよ。」
「何を食べるつもり?」
「わかんない、その辺うろうろしてみるよ。最後の夜だからたっぷり飲んでくるよ。」
「仕事がなかったら俺も一緒に行くんだけどな。」
彼は残念そうにそう言うと、ボクを夜のマニラの街へ送り出してくれた。
以前はチャイナタウンに泊まっていたが、最後の夜は繁華街の近くに宿をとることにした。チャイナタウンあたりは結構夜は早く店が閉まってしまうからだ。
中心に近いペドロ・ヒル駅で降りてとりあえず両替屋を探す。ブルネイに行くときにペソを残しておいたのだが、今夜の宿代と飲み代にはちょっと寂しい。
このあたりマラテ地区は探さなくても両替屋はたくさんある。ボクは3畳ほどの小さな両替屋でとりあえず20ドル両替した。
「すいません、日本人ですか?」
お金を数えていると後ろから日本語で声がかかった。見ると60前後くらいのおじさんだった。
「日本人ですか?」
「そうだよ。」
おじさんは中華系なのか見た目は日本人とかわらない。
「女いりませんか?」
「女?そんなのいらないよ、明日日本に帰るしね。」
明日帰らなくても必要ない。ボクはこの手の客引きは嫌いだった。
「どこ泊まってますか?」
おじさんはしつこくボクに問いかけてくる。
「どこも泊まってないよ、これから探すんだよ。」
「今日来たのですか?それで明日帰りますか?」
「ブルネイに行ってて明日帰るの。」
胡散臭いおっさんにボクはいらいらしていた。普段ならさっさと行ってしまうのだが、外はスコールで大雨だった。
「ホテルもありますよ。」
「ほんと?一泊いくら?」
これから宿を探すボクは思わずおじさんの言葉に反応した。
「2000から3000ペソくらいです。」
というと4~6千円だ。とても話にならない。
「高すぎるよ、500くらいだったら払うよ。」
「500もあります。」
おじさんはさらっと言ってのけた。
「ほんと?500ペソだよ、じゃあ連れてって。」
連れて行かれたのはその両替屋の2階だった。いかにも安宿らしいドアには「DAKS INN」とかかれている。
レセプションにいたのは日本人ぽい顔をした変なやつ。「部屋を見せてくれる?」というといろいろ部屋を見せてくれた。
雑居ビルの2階にあるDAKS INNは全部で10室くらいだろうか。
狭い通路には昼間からビールを飲んでいるそれっぽい職業の女性がいた。綺麗な顔立ちで「Hi !」と声をかけられてちょっとビックリ。
結局ボクは一泊520ペソのエアコン付きの部屋を選んだ。トイレ、シャワー付きもあったが、どうも汚くて共同シャワーの方が清潔な感じだった。
部屋は全部黄色に塗られていて、そこにエアコンとテレビがあるシンプルなもの。典型的な安宿だったが何故かしっくりくる。
「私はいつもこの辺にいます。女いるならいつでも言ってください。ここに連れてきてもいいですから。」
「ああわかったよ。そん時はたのむよ。」
ボクはそう言っておじさんを追い払った。
「ここにするよ。明日帰るから一泊だけ。」
ボクは部屋を見せてくれた彼にパスポートを渡してお金を払った。
「あなたは日本人ですか?」
彼はボクのパスポートを見てそう言った。
「そうだよ。」
「山下将軍を知ってますか?」
「山下将軍?」
名前を聞いてピンとこなかったが、確か陸軍大将だった人のような記憶がある。
「俺は山下将軍って呼ばれてるんだ、似てるだろ?」
似てると言われても山下将軍の顔はみたことない。
それからボクは彼のことを「山下将軍」と呼ぶようになった。
チェックインを済ましたボクは何やかんやと山下将軍と話し込み、気が付けば7時を過ぎていた。
「そろそろご飯食べに行くよ。」
「何を食べるつもり?」
「わかんない、その辺うろうろしてみるよ。最後の夜だからたっぷり飲んでくるよ。」
「仕事がなかったら俺も一緒に行くんだけどな。」
彼は残念そうにそう言うと、ボクを夜のマニラの街へ送り出してくれた。
2005-11-01
ブルネイの旅(最終回)
ブルネイには「カンポン・アイル」と呼ばれる水上集落がある。首都バンダル・スリ・ブガワンの人口約5万人のその多くが川の上に暮らしている。
彼らは政府の陸地への移住政策を拒み続け、昔ながらの生活スタイルを変えようとしない。
「水上集落」と言えば貧乏そうなイメージがあるが、もちろん電気は通っているしテレビやエアコン、衛星放送まで付いてる家もあるくらい。結構快適な生活なのだ。「水上集落」というより「水上住宅街」と言った方がいいかもしれない。
家々を区切る板の橋?にはちゃんとストリート名がついている。これで郵便もちゃんと届くわけだ。移動は「水上タクシー」と呼ばれるボートタクシーがブンブン走っている。値段は交渉制らしいが確かな値段はわからない。学校や病院らしきものも水上に建てられている。
この建物は学校らしい。学生はみんな細い板の橋を渡って通学している。何か遠い昔にどこかで見たような風景。街には外国の高級車が走り、その一方で時間が止まったような風景が広がっている。
「この橋を渡っていくと。。。。。」
そこは今まで旅してきた道につながっているような気がした。
空港で会ったホテル紹介の彼が言ってたことを思い出した。
「公園なんかで寝てる人は誰もいないよ。でも外で寝ても安全だよ。この国にはスリや泥棒はいるけど殺人はないからね。」
ブルネイ最後の夜はナイトマーケットに行ってみた。規模は小さいが野菜から惣菜などいろんなものが売っている。美味そうなものがたくさんならんでいるがここにもアジアの喧噪はない。それに何より物足りないのがここで食べることができないということ。
店にはテーブルや椅子が全くなく、みんな高級車で乗りつけてお持ち帰りしている。普通アジアのナイトマーケットと言えば焼き鳥やわけのわからないものを頬張りながらビールというのが常識なのだが、ここにはそれはない。せっかく美味しそうな魚が焼きあがってるのに。。。とっても残念。
まあテーブルがあったとしても肝心のビールがないのでは話にならない。ということはこの国には飲酒運転は存在しない。ある意味幸せな国なのかもしれない。
一通り屋台をひやかしたボクは近くのショッピングセンターへ行ってみた。なんでもブルネイで一番にぎやかなところらしい。ショッピングフロアは4階建てで見た目はちょっと古めかしいが、中は「ほんとにここはブルネイ?」と思うくらい綺麗で立派だ。一番上の右端の赤いライトがついているところには映画館が入ってるらしく、これも日本のシネコンとかわらない設備でかなりビックリした。
ブルネイ最後の夕食はここのフードコートでナシゴレンを食べてみた。さすがにファーストフードっぽい感じがするが盛り付けもとても綺麗だ。味もとっても美味しい。パクパク食べているとお店の女の子が話しかけてきた。
「シンガポール人ですか?」
学生のアルバイトなのか、見た目は高校生くらいだ。
「いいや、日本人だよ。」
「日本人?」
「そうだよ。」
「わたし日本人初めて見ました。おしんですか?」
「おしん?」
彼女以外の女の子もみんなボクに関心があるみたいだ。
「おしんって日本のドラマだろ?もう20年くらい前のだよ、よく知ってるね?」
「ブルネイではおしんは有名です。みんな知ってます。」
「そっか、でももう日本におしんみたいな女性はいないよ。」
「どうしてですか?」
「日本に来ればわかるよ。」
彼女は不思議そうな顔をしていた。ボクの言った意味がわからないらしい。
ボクはナシゴレンを平らげた。
明日はもうマニラ。またあの喧噪の街に帰るのだ。
「明日の夜はやっとビールが飲める。」
ボクはマニラの最後の夜に思いをめぐらせていた。
彼らは政府の陸地への移住政策を拒み続け、昔ながらの生活スタイルを変えようとしない。
「水上集落」と言えば貧乏そうなイメージがあるが、もちろん電気は通っているしテレビやエアコン、衛星放送まで付いてる家もあるくらい。結構快適な生活なのだ。「水上集落」というより「水上住宅街」と言った方がいいかもしれない。
家々を区切る板の橋?にはちゃんとストリート名がついている。これで郵便もちゃんと届くわけだ。移動は「水上タクシー」と呼ばれるボートタクシーがブンブン走っている。値段は交渉制らしいが確かな値段はわからない。学校や病院らしきものも水上に建てられている。
この建物は学校らしい。学生はみんな細い板の橋を渡って通学している。何か遠い昔にどこかで見たような風景。街には外国の高級車が走り、その一方で時間が止まったような風景が広がっている。
「この橋を渡っていくと。。。。。」
そこは今まで旅してきた道につながっているような気がした。
空港で会ったホテル紹介の彼が言ってたことを思い出した。
「公園なんかで寝てる人は誰もいないよ。でも外で寝ても安全だよ。この国にはスリや泥棒はいるけど殺人はないからね。」
ブルネイ最後の夜はナイトマーケットに行ってみた。規模は小さいが野菜から惣菜などいろんなものが売っている。美味そうなものがたくさんならんでいるがここにもアジアの喧噪はない。それに何より物足りないのがここで食べることができないということ。
店にはテーブルや椅子が全くなく、みんな高級車で乗りつけてお持ち帰りしている。普通アジアのナイトマーケットと言えば焼き鳥やわけのわからないものを頬張りながらビールというのが常識なのだが、ここにはそれはない。せっかく美味しそうな魚が焼きあがってるのに。。。とっても残念。
まあテーブルがあったとしても肝心のビールがないのでは話にならない。ということはこの国には飲酒運転は存在しない。ある意味幸せな国なのかもしれない。
一通り屋台をひやかしたボクは近くのショッピングセンターへ行ってみた。なんでもブルネイで一番にぎやかなところらしい。ショッピングフロアは4階建てで見た目はちょっと古めかしいが、中は「ほんとにここはブルネイ?」と思うくらい綺麗で立派だ。一番上の右端の赤いライトがついているところには映画館が入ってるらしく、これも日本のシネコンとかわらない設備でかなりビックリした。
ブルネイ最後の夕食はここのフードコートでナシゴレンを食べてみた。さすがにファーストフードっぽい感じがするが盛り付けもとても綺麗だ。味もとっても美味しい。パクパク食べているとお店の女の子が話しかけてきた。
「シンガポール人ですか?」
学生のアルバイトなのか、見た目は高校生くらいだ。
「いいや、日本人だよ。」
「日本人?」
「そうだよ。」
「わたし日本人初めて見ました。おしんですか?」
「おしん?」
彼女以外の女の子もみんなボクに関心があるみたいだ。
「おしんって日本のドラマだろ?もう20年くらい前のだよ、よく知ってるね?」
「ブルネイではおしんは有名です。みんな知ってます。」
「そっか、でももう日本におしんみたいな女性はいないよ。」
「どうしてですか?」
「日本に来ればわかるよ。」
彼女は不思議そうな顔をしていた。ボクの言った意味がわからないらしい。
ボクはナシゴレンを平らげた。
明日はもうマニラ。またあの喧噪の街に帰るのだ。
「明日の夜はやっとビールが飲める。」
ボクはマニラの最後の夜に思いをめぐらせていた。