2005-10-18

観光におけるキャリングキャパシティ

韓国の最高峰であり、済州島のシンボルでもある「漢拏山(ハルラ山)」。最近では韓国ドラマのロケなどで有名なようだ。4年前の11月、僕はこのハルラ山のランニング登山に挑戦したことがある。数カ所ある登山口の一つ霊室から山頂を目指し、反対側の城坂岳口まで走る予定でいた。樹林帯を抜け、見通しが良くなった8合目付近まで来たところ、道にロープが張られ、どう見てもこれは行ってはダメ!という雰囲気だった為、近くにあった山小屋で休憩を取りながら情報を聞くことにした。
 そこで、駐在していた山岳レンジャーさんとしばらく山の話しをするが、とても興味深い内容の話が聞けた。ハルラ山では1999年より、山の休息年になっており、8合目より山頂までは登山制限区域にされ、一般登山客の入山を禁止していたのだ。理由は簡単、「山の自然環境を守る為」。ここでは人よりも山の事情が優先されているのだ。正直、ここまで着て残念とういう気持ちもあったが、韓国の山岳事情についてもいろいろな話しを聞く事が出来、しかも「休息年制」という画期的なシステムを導入していることについて、とても感動していた。韓国では、焼酎で有名な「雪嶽山(ソラクサン)」でも山の休息年制を取り入れており、韓国の人達の環境に対する意識の高さに、驚かされる経験だった。
昔、なぜ山に登るのかと聞かれた登山家は「そこに山があるから…。」と答えたが、少なくともハルラ山や雪嶽山は、それだけの理由では登ることの出来ない山々なのである。
日本での山岳観光の現状を見てみると、富士山をはじめとして、環境や安全面などにおいても非常に大きな課題を抱える地域が多い。マイカーを規制するのも良いが、手遅れになる前に、韓国のシステムをぜひ参考にして頂きたいと思う。
 山小屋を後にした僕は、予定を大きく変え、オリモクへと転がり落ちるように下山し、そのまま市内へと走って帰る事になった。当初の目的は達成できなかったが、十分に有意義な経験をした旅であった。
 さて、本題である「観光におけるキャリングキャパシティ」とは、自然の景勝地や文化遺産の地において、その場所の環境を悪化させることなく、持続的に収容していくことが可能な、旅行者数についての考え方なのだが、今日は僕の経験談ばかりが長くなってしまったので、これについてはまたの機会に考えてみたいと思います。

下の画像は本文とは関係ないが、朝日連峰より望む『月と明けの明星』


2005-10-12

エコツーリズムって何で必用なの?

さて、前回の続きですが、写真と本文は何も関係がありませんので。。。
ちなみに沖縄、座間味島でシーカヤックを楽しんでいるところです。


 巨大化して猛威を振るうハリケーンや台風、雨が全く降らないと思いきや翌日には被害が出るほどの豪雨…。どうやら海水温度上昇などの気象の変化が影響しているらしい。地球の温暖化など、その原因はきっと人間による要因が大きいのだろう。しかしながら、生活を豊かで便利にしていくためには、ある程度(すでに度が過ぎているかも)の自然を破壊することは、しかたがないことか? いずれにせよ、このツケを払うのは僕達の子供や孫になってしまうのは間違いないのだろうが…。自然を守り、壊れた自然を回復させて行きながら、経済も成長させていく事は相反することで、そんな事は到底出来ないのだろうか。   
こうした問題に今、さまざまな分野でそれぞれの立場から、いかに環境にローインパクトであるべきかが考えられ取り組まれている。観光の分野でもこの問題に真剣に向き合おうとする動きが活発になってきていて、それがエコツーリズムというこれまでとは違った旅の概念やスタイルであると思う。
 
 今から25年前の1980年、とても興味深い研究報告がなされている。『東アフリカ国立公園にいるライオンは観光で一生に51万5,000ドルの外貨を稼ぐが、もし狩猟目的で利用されれば8,500ドル、皮革ではわずか1,325ドルしか稼がない』と。ここではライオンを例に挙げているけど、この報告はエコツーリズムが持つ役割とその方向性を示唆していると思う。つまり経済の発展の為に自然を犠牲にしないで、保護していくことで観光資源として持続的に活用し、そこに新たな仕事や雇用が生まれてくる。結果、自然環境を守りながら地域社会や経済の健全な発展にも繋がっていくという訳だ。
 
 僕が大好きな南の国、フィリピンのパラワン島エルニドは今では日本人観光客もよく訪れる高級リゾート地になっているが、ここは観光開発される以前の1980年代まではマングローブ伐採やダイナマイト漁などで資源の枯渇が深刻な問題になっていた地域だった。その後、責任あるリゾート開発によって地元や近隣の多くの人たちが仕事に従事し、ホテル以外のいろいろな方面にも経済的な恩恵を与え地域全体が大きく変化したようだ。一番の変化は住民が環境と観光について自ら考え、自然との新たらしい関係を築き始めたことだという。このようなリゾート開発以外にも、フィリピンでは政府と企業・地元が一体となったエコツーリズム事業が積極的に進められている。
 
 僕の地元の自然学校では川での体験プログラムを通し、川の汚れを実際に見てもらって、どうして川が汚れるのかを説明している。そしてこの川の水も水道水としてみんなに飲まれているということも。そうすると大抵の参加者は自分が普段の生活の中で何ができるのか考えてくれるという。普段、街の中で生活しているとなかなか感じないが、僕自身いろいろなプログラムに参加して、人間も自然の生態系の一部に組みこまれていることが実感できるようになった今日この頃です。
 
 日本でのエコツーリズムの現状を見ると、最前線に立つのは旅行会社よりも、自然学校などのアウトフィッターや環境団体である場合が多い。彼らはとても活発に活動していて、すぐれたプログラムを提供している。僕ら旅行会社はこれらの団体との関係をもっと深めていくべきと思う。    つづく。

 次回は(いつになるか分かりませんが…)エコツーリズムの理念に基づき、さまざまなサービスやプログラムを提供しているオペレーターやボランティアで活動している人達、環境にローインパクトな生活をしている人達を、ご紹介できればと思います。